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STORY 27

Autor: mako
last update Última atualização: 2026-01-15 15:55:34

「本当にいろいろありがとう」

目の前で深々と頭を下げる明日香に、俺は小さく頭を振った。

彼女の声は相変わらず落ち着いていて、どこか昔と変わらない強さがあった。

「幸せか?」

「うん」

穏やかに微笑む彼女に、俺も安堵から笑みが浮かんだ。

肩の力を抜いた明日香の笑顔を見て、ようやく俺も過去に区切りをつけられる気がした。

木崎明日香。俺の高校・大学からの同級生であり、元妻だ。

木崎貿易の娘でありながら、両親を若くして亡くし、叔父夫妻に育てられた彼女。

誰よりも努力家で、誰よりも責任感が強い。感情を表に出すのは苦手でも、信念を曲げることはなかった。

そんな彼女が、叔父の不正を知ったとき――

どうしても叔父から木崎貿易を取り戻したい、と強い決意とともに俺のもとを訪れた。

「協力してほしい」そう言って、何度も頭を下げてきた。

そのときの明日香の顔は、今でも忘れられない。

あの冷静な彼女が、泣く寸前で必死にこらえていた。

けれど俺には、その申し出をすぐに受け入れることはできなかった。

沙織を守らないといけない――

そんな使命感のようなものが、心の中にしっかりと根を張っていたからだ。

いくら昔からの
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  • The Last Smile   STORY 57

    「何の騒ぎですか?」低く落ち着いた声が響く。その声に、私はすぐに反応し、秋元さんのもとへと歩み寄った。「この女性が、このパーティーに紛れ込んで場を乱しているんです」そう伝えると同時に、ちらりと沙織の方を見る。彼女は何も言わずにこちらを見返していた。社員かもしれないが、本社の人間が彼女のことを知るわけがない。きっと場違いな存在として、すぐに追い出せるはず。何より、この男も私に気があるのはこの間から明らかだ。ならば、きっとすぐに沙織を排除してくれる。「この人は?」芳也の母親が私を見て、秋元さんに問いかける。「神田グループの方よ」私がそう説明すると、彼女の態度は瞬時に変わった。「先日はうちの息子がお世話になったようですね」さっきまで沙織に向けていた敵意とは打って変わり、愛想のいい笑顔を作りながら、秋元さんに挨拶をする。「ええ、こちらこそ大変お世話になりました」相変わらず穏やかな口調の秋元さん。私は彼にそっと耳打ちする。「あの女性、元夫に未練があるみたいで、泣いてすがりに来たんです。こんな場所まで」困ったものだという表情を浮かべ、彼の反応を伺う。だが、その瞬間、一瞬だけ空気が変わった気がした。(……え?)気のせいだろうか。彼の表情は変わらないのに、今までとは違う何かを感じた。その時、壇上にスポットライトが当たり、神田グループの社長が姿を現した。会場が静まり返る。パーティーの主催者である彼が、何を話すのか——その言葉を待つように、皆が壇上へと視線を向けた。Side 沙織今日、このパーティーが行われる少し前、私は神田家御用達のドレスサロンにいた。そこは銀座の高級ブランドが集まるエリアの一角にあるVIPルーム。重厚な扉を開けると、洗練された空間が広がっている。ふわりと漂う上品な香り、厳選されたシャンデリアの灯りが柔らかく絹のドレスを照らし、壁際には美しく仕立てられた最新のハイブランドのドレスが並んでいる。昔はよくここでドレスを選んだことを懐かしく思い出す。久しぶりに着るドレス。少しだけ緊張しながら、私はいくつものドレスを手に取り、眺めていた。「沙織」不意に聞こえた静かな声に、私は驚いて振り返る。「陸翔兄さま……?」そこに立っていたのは、変わらぬ落ち着いた表情の彼だった。「社長から、今日選びに行っているから、帰りに迎え

  • The Last Smile   STORY 56

    閑話 美咲きらびやかな神田グループの所有するパーティー会場。豪華なシャンデリアが天井から輝き、ドレスアップした人々が優雅にグラスを傾けている。私も芳也にねだって買ってもらったドレスに身を包み、この洗練された空間に溶け込んでいた。そして、今夜同行しているのは——芳也と、その母親。小林は神田グループの一員として出席するため、私たちとは別行動だが、きっとうまく立ち回るだろう。秋元もこちらに引き込んでいるはずだし、問題はない。「本当に、美咲ちゃんのおかげね。こんな素敵なパーティーに来れるなんて」芳也の母が満足そうに微笑みながら言う。私はそんな彼女に優雅に微笑み返した。彼女は沙織のことを嫌っていた。沙織が芳也の婚約者だった頃から、孤児のような身の上の彼女を決して認めようとはしなかった。(まあ、私からすれば、芳也のために尽くしてくれた分、少しは感謝してもいいのかもしれないけど)そんなことを考えながら、ふと視線を上げた瞬間——思わず動きを止めた。——沙織!?目の前に広がる景色の中で、周囲の男性たちがなにやらそわそわと落ち着かない様子を見せている。その視線の先にいたのは——まぎれもなく、沙織だった。(なぜ……?)確かに彼女はコードシステムで働いている。だから、ここにいてもおかしくはない。だが、このパーティーは上層部や選ばれた人間だけが招待される特別な場。それに、彼女はすでに担当から外したはず……!なのに、沙織は何の違和感もなく、にこやかに隣の女部長と談笑していた。優雅な微笑みを浮かべ、まるでこの場が当然のように振る舞っている。私がじっと彼女を見つめていることに、最初に気づいたのは芳也の母だった。「ねえ、芳也! どうしてあの女がこんなところにいるのよ!!」彼女は突然、怒りをあらわにしながら、芳也に詰め寄る。「は?」芳也は、母親の剣幕に一瞬きょとんとしながら、指さされた方向を見た。「沙織……?」最後の言葉が疑問形になったのは、私にも理解できた。今夜の沙織は、まるで別人のようだった。彼女が纏っているのは、今年の新作のハイブランドのドレス。気品あふれるその装いは、どこから見ても洗練され、特別に仕立てられたものに違いなかった。そして——彼女の姿に、この場の誰もが視線を奪われていた。その瞬間、沙織の視線がこちらに向いた。ほん

  • The Last Smile   STORY 55

    実家の重厚な扉を開けると、幼い頃から見慣れた広いエントランスが目に入る。大理石の床に反射する柔らかな照明、整然と並べられた美術品、そしてふわりと漂う上品な香りがした。先日戻って以来だが、今日はいろいろ話したくて実家に戻っていた。「沙織、おかえり」ダイニングルームの奥、長いテーブルの向こうで、父がワイングラスを片手に微笑んでいた。テーブルにはすでに母が用意した豪華な料理が並び、まるで「おかえりなさい」と迎えられているような気持ちになる。「久しぶりに食事でもどうだ?」「ありがとう」父と向かい合って座ると、すぐにワインが注がれた。クリスタルのグラスの中で深いルビー色の液体が揺れる。久しぶりに飲む実家のワインは、どこか懐かしく、胸の奥が少し温かくなる。ワインを一口飲み干したタイミングで、父がゆっくりと口を開いた。「それで、どうだ?」「……何が?」実家の重厚な扉を開けると、幼い頃から見慣れた広いエントランスが目に入る。大理石の床に反射する柔らかな照明、整然と並べられた美術品、そしてふわりと漂う上品な香りがした。先日戻って以来だが、今日はいろいろ話したくて実家に戻っていた。「沙織、おかえり」ダイニングルームの奥、長いテーブルの向こうで、父がワイングラスを片手に微笑んでいた。テーブルにはすでに母が用意した豪華な料理が並び、まるで「おかえりなさい」と迎えられているような気持ちになる。「久しぶりに食事でもどうだ?」「ありがとう」父と向かい合って座ると、すぐにワインが注がれた。クリスタルのグラスの中で深いルビー色の液体が揺れる。久しぶりに飲む実家のワインは、どこか懐かしく、胸の奥が少し温かくなる。ワインを一口飲み干したタイミングで、父がゆっくりと口を開いた。「それで、どうだ?」「……何が?」「それなのに、あいつが——お前の気持ちが一番大切だとかなんとか、わかったことを言うから、私だって手を下さなかっただけだ」「え?」その意味が分からず問いかけると、父はワイングラスを置き、私をまっすぐに見据えた。「一度でも、お前が愛した男のことだから、お前の気持ちを優先したい。沙織がきちんと気持ちにケリをつけるまで待ちたいと——」陸翔兄さま……。やろうと思えば、父も陸翔兄さまも、芳也などすぐにこの業界から消し去ることは簡単なはずだ。それをしなかったの

  • The Last Smile   STORY 54

    ――閑話 芳也「今日はありがとうございました。とても有意義な時間でした」俺は小さく会釈をして、二人に視線を向ける。本当に有意義だったよ。心の中でそう小さく笑う。「秋元さんはどうされるの?」美咲が頬を染め、暗にこれからの展開を期待するような視線を送ってくる。その様子に、胸の奥で嫌悪感がじわりと広がるのを感じながら、表情をゆがめないように気をつける。「まだ社に戻って仕事があるんです」わざと申し訳なさそうな口調で言うと、美咲の瞳がわずかに残念そうに揺れた。だが、すぐにふわりと微笑み、俺にそっと近づいてくる。甘ったるい香水の匂いが鼻をくすぐる。そして、俺の手に何かをそっと押し込む。「お待ちしてますね」ささやくような声とともに、美咲の指先が一瞬、俺の手を撫でるように触れる。見なくても分かる。小さな紙片には、名前と番号が書かれているのだろう。俺は手の中のそれを握りしめないようにだけ気をつけながら、表情を崩さず笑みを貼り付けたままにする。「それでは、お気をつけて」そう言って見送ると、小林と美咲はタクシーに乗り込み、街の灯りの中に消えていった。これから沙織の元夫、佐橋が合流するのか、それとも二人でどこかホテルに消えるのか――そんなことは、どうでもいい。佐橋が佐橋なら、あの女もあの女だ。(まったく、救いようがないな)胸の奥に込み上げる虫唾が走りそうな嫌悪感を、深く息をつくことで押し込める。――その直後。ゆるやかに黒塗りの高級車が俺の前に滑り込んでくる。無駄のない動きで運転手が降り、後部座席の扉を開けた。俺は何も言わずに乗り込み、ドアが閉まると同時にネクタイを緩め、眼鏡を外す。(……連絡先、か)シートに深くもたれ、ゆっくりと髪を指で崩しながら、車窓の向こうに流れる夜景を見つめた。(まったく、救いようがないな)胸の奥に渦巻く嫌悪感を、静かに押し込める。やがて車はレジデンスのエントランスの前で停まる。運転手が再び扉を開き、俺はゆっくりと降りた。玄関をくぐり、上着を脱ぎながら書斎へ向かう。沙織はもう眠っているだろうか。今日は食事をきちんと取っただろうか。ようやく俺に彼女が頼ってくれた。もちろん、何も言われなくても沙織の敵はすべて排除したいと思っている。しかし、相手は沙織の愛した男。そのことが俺に少しだけ躊躇をさせていたこと

  • The Last Smile   STORY 53

    私はにこやかに応じ、小林も上機嫌で盃を持ち上げる。「乾杯!」グラスが軽く触れ合い、涼やかな音を立てる。酒を口に含むと、ひんやりとした感触が喉を滑り落ち、ふわりと上品な香りが鼻を抜けた。「いやぁ、こういう場所でゆっくり飲むのは久しぶりですよ」小林が早速酒を煽りながら、気楽に話し始める。「いいですねぇ、そういう余裕がある方は」秋元はにこにこと相槌を打つ。その笑顔が妙に気が抜けて見えて、私は軽く笑った。(簡単そうな男?)「秋元さんはどちらの方んですか?」彼のことは最低限聞いておくべきだと、私は問いかける。「私ですか? 一応神田グループ本社にいます」本社勤務だから、小林もこうしてゴマをすっているのか……。平社員だとしても出世する可能性もあるし、つないでおいて損はない。そう思い彼の空いたグラスに日本酒をお酌する。「美咲さんは、こういうお店はよく来られるんですか?」「いいえ、こんな素敵なお店にはなかなか」笑顔で答えると、秋元は少し驚いた様子を見せた。「あなたほどの人なら、よく来るかと思っていました」その言葉にわかっているじゃないと思いつつ、謙遜して見せる。小林はすっかり上機嫌で、話が止まらない。「いやぁ、でもね、仕事ってのは結局、うまく立ち回れるかどうかですよ」「なるほど、立ち回り……ですか」秋元が何気なく言葉を返す。「ええ、やっぱり、人脈とか、そういうのが大事なんですよ」(あー、また調子に乗ってペラペラ喋ってる)私は酒を口にしながら、軽く聞き流していた。正直、小林の話なんてどうでもいい。ただ、今夜のターゲットは秋元。「秋元さんはどう思われますか?」さりげなく話を振ると、秋元は少し考えるような素振りを見せた。「そうですねぇ……」彼は盃を傾けながら、微かに笑う。「僕はまだまだ未熟者なので、皆さんのお話を聞いて勉強させてもらってるところですよ」(あら、謙虚なのね)笑顔で答えると、秋元は少し驚いた様子を見せた。「あなたほどの人なら、よく来るかと思っていました」その言葉にわかっているじゃないと思いつつ、謙遜して見せる。小林はすっかり上機嫌で、話が止まらない。「いやぁ、でもね、仕事ってのは結局、うまく立ち回れるかどうかですよ」「なるほど、立ち回り……ですか」秋元が何気なく言葉を返す。「ええ、やっぱり、人脈とか

  • The Last Smile   STORY 52

    閑話 美咲私は一階のロビーで芳也を待っていた。だが、先にエレベーターの扉が開き、降りてきたのは小林だった。彼の軽薄な笑顔を見て、虫唾が走る。最近は私への扱いも雑になってきたし、そろそろ切り時かもしれない。とはいえ、芳也経由でもらったバッグや贈り物は悪くない。あと少しだけ利用するのも手かしら。そんなことを考えていると、小林が不自然なくらいペコペコと頭を下げているのが目に入った。(……誰?)彼の前を歩く男は、一目でただ者ではないと分かった。整った顔立ちに、モデルのように均整の取れた身体。そして何より、あのオーラ——圧倒的な自信と洗練された雰囲気をまとっている。眼鏡の奥の瞳は冷静に周囲を見渡しながらも、何かを試すような色を帯びていた。明らかに「上」の人間の余裕。小林の態度からしても、相当の地位を持つ男なのは間違いない。小林がちらりと私を見る。目が合うと、私はすぐに立ち上がり、満面の笑みを浮かべて彼に歩み寄った。「小林社長、お疲れ様です」小林は一瞬、戸惑ったように視線を彷徨わせる。私はその間に、さりげなく男に視線を移した。「ご紹介いただけませんか?」「え、あ、ええと……」小林が慌てながら男の方を向くが、その男はにこやかな笑みを浮かべ、穏やかな口調で名乗った。「秋元です」柔らかい微笑み。それでいてどこか探るような視線。(ふふ、男なんてちょろいものよ)私にかかればどの男も落とせる。芳也だって、最初はすぐに私に夢中になったのに、いまさら沙織を気にしたりして、本当に気に入らない。また、あの忌々しい地味な沙織の顔が脳裏をよぎり、つい表情がゆがみそうになるのを耐える。「小林社長とお仕事を?」「え、あ。その……」なぜか小林は少し言葉を濁す。その曖昧な態度に、私は心の中で呆れる。ほんとうに煮え切らない男。すると、代わりに秋元がすんなりと答えた。「ええ、少しお仕事を一緒にさせてもらうことになったので、今日は挨拶に伺ったんですよ」なんてことない言葉なのに、妙に落ち着いた口調が耳に残る。「せっかく知り合ったのも、何かの縁です。これから食事に行くんですが、ご一緒にいかがですか?」秋元の誘いに、私は心の中でガッツポーズをする。(やっぱりちょろいわね)それにしても、小林の態度が妙に気になるけれど……まあ、どうでもいいわ。「よろしいんですか? ぜ

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